女の気持ち ~毎日新聞100904~
スカイツリー
急に観光地になってしまった町のすぐ近くに、私の実家がある。日ごとに着実に高くなっていく姿は、まるで伸び盛りの少年のようにまぶしい。
そこに住む90代の父母を介護するため自宅から往復しながら、ツリーの成長を眺めている。
意識はしていないが、父母とはツリーの話題をあまりしない。会うたびに2人は老化が進み、私もため息や愚痴が多くなってきている。
来年末に完成という東京スカイツリーは、父と母にとって、まるで逆方向に発展する存在と感じているからかもしれない。
私が育ったころは、小さい家々が隣り合い、路上から両国の花火が楽しめた。足が不自由になり、出歩けない老人にとって、近くが観光地化して有名になればなるほど、ちょっと苦いものがあるのではないだろうか。
少々あまのじゃくになっている私の傍らで父母は、私の作った昼食を、こぼさないようにとまじめな表情で食べている。
こうなれば、見方を変えてみよう。高齢まで両親が生きてくれている幸運に感謝し、スカイツリーの成長と、介護を続けていられる私の「人間力」との成長比べをしましょう。