毎日新聞 女の気持ち

父のありがとう 神奈川県鎌倉市・広瀬潤子(主婦・51歳)
毎日新聞 2012年11月08日 東京朝刊
「ありがとう」(10月26日)を拝読しました。本当に素晴らしい言葉ですね。
私の父は、母との「第二の人生」を歩み始めたころ、突然、脳の病に襲われ、言葉が出なくなってしまいました。病院から「一生、話をするのは無理です」と告げられたものの、あきらめきれずに毎日、父の入院先へ母と通いました。父は言語療法士の先生と一緒に言葉の訓練を続ける生活です。
しかし、何カ月たっても言葉は出ません。病院から「もう少し専門的に診てもらえる病院へ移ってはいかがですか」と言われ、転院することにしました。
父と母を車に乗せ、私がハンドルを握って出発しようとした瞬間、父の口から「ありがとう」という言葉がポロリと出たのです。
母も私も、心臓が口から飛び出そうな程ビックリしました。転院先で先生に、この話をすると、「それは、残語といい、言葉を話せるようになったのではなく、その人の人生の中でよく使っていた言葉が、ごくまれに出ることがあるんです」との説明を受けました。
結局、父は亡くなるまで一言も話すことはありませんでした。残語の「ありがとう」の言葉が今でも耳に残っています。心に響くすてきな言葉だ、と思います。

父のありがとう ~毎日新聞20121108~

「ありがとう」(10月26日)を拝読しました。本当に素晴らしい言葉ですね。

私の父は、母との「第二の人生」を歩み始めたころ、突然、脳の病に襲われ、言葉が出なくなってしまいました。病院から「一生、話をするのは無理です」と告げられたものの、あきらめきれずに毎日、父の入院先へ母と通いました。父は言語療法士の先生と一緒に言葉の訓練を続ける生活です。

しかし、何カ月たっても言葉は出ません。病院から「もう少し専門的に診てもらえる病院へ移ってはいかがですか」と言われ、転院することにしました。

父と母を車に乗せ、私がハンドルを握って出発しようとした瞬間、父の口から「ありがとう」という言葉がポロリと出たのです。

母も私も、心臓が口から飛び出そうな程ビックリしました。転院先で先生に、この話をすると、「それは、残語といい、言葉を話せるようになったのではなく、その人の人生の中でよく使っていた言葉が、ごくまれに出ることがあるんです」との説明を受けました。

結局、父は亡くなるまで一言も話すことはありませんでした。残語の「ありがとう」の言葉が今でも耳に残っています。心に響くすてきな言葉だ、と思います。

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