女の気持ち:野菜直売所 北海道新十津川町・澤田孝江(主婦・70歳)
毎日新聞 2012年11月25日 東京朝刊
ドライブがてら、漬物の材料を買いに、約40キロ離れた町の野菜直売所へ行った。大玉のキャベツが目当てである。昨年は思いのほか安く、1個680円だった。今年は何と1300円。2倍の価格だった。どこにでもある品ではないので、3個買った。飯(い)ずし用にも使う。ニンジン、大根、ショウガを足して、7000円にもなった。「しまった」。ドキドキしながら、財布の中をかき回す。
おじさんはのろまな私を気にせず、「姉ちゃん、ゆっくりやっていいぞ」と。
次から次へとお客が続く。やっぱり、1000円不足している。オロオロしながら、砂糖や酒かす、みそを戻した。もう一度、計算してもらおうとしたら、「今度、来た時でいい」「そんなこと言っても遠くから来たんだもの」「遠くても、近くても、来年でいいぞ」と言う。
おじさんの温かい声に押されて、戻した品を、また、段ボール箱に入れた。一体、何をやっているのだ。歯がゆくなる。
「じゃ、おじさん、私の名前を言います」「そんなもの聞いたって、忘れるわ」
12月初旬まで、店が開かれているのを確かめ、礼を言って帰ってきた。なんて、いい人なんだろう。
2日後、直売所を訪ねた。
「おじさん、借金してごめんなさい」「そんなこと、あったか。忘れとったわ」
心の負担をかけまいとする、この言葉がうれしかった。キャベツの価格が高いという思いは、すっかり消えていた。
女の気持ち 野菜直売所 毎日新聞 2012年11月25日
ドライブがてら、漬物の材料を買いに、約40キロ離れた町の野菜直売所へ行った。大玉のキャベツが目当てである。昨年は思いのほか安く、1個680円だった。今年は何と1300円。2倍の価格だった。どこにでもある品ではないので、3個買った。飯(い)ずし用にも使う。ニンジン、大根、ショウガを足して、7000円にもなった。「しまった」。ドキドキしながら、財布の中をかき回す。
おじさんはのろまな私を気にせず、「姉ちゃん、ゆっくりやっていいぞ」と。
次から次へとお客が続く。やっぱり、1000円不足している。オロオロしながら、砂糖や酒かす、みそを戻した。もう一度、計算してもらおうとしたら、「今度、来た時でいい」「そんなこと言っても遠くから来たんだもの」「遠くても、近くても、来年でいいぞ」と言う。
おじさんの温かい声に押されて、戻した品を、また、段ボール箱に入れた。一体、何をやっているのだ。歯がゆくなる。
「じゃ、おじさん、私の名前を言います」「そんなもの聞いたって、忘れるわ」
12月初旬まで、店が開かれているのを確かめ、礼を言って帰ってきた。なんて、いい人なんだろう。
2日後、直売所を訪ねた。
「おじさん、借金してごめんなさい」「そんなこと、あったか。忘れとったわ」
心の負担をかけまいとする、この言葉がうれしかった。キャベツの価格が高いという思いは、すっかり消えていた。