ずっと気になっていたコンビニ経営についての記事が掲載されていました。
毎日新聞 20140104 過当競争、店主は疲弊
コンビニエンスストアは便利だ。でも都市部では多すぎないか。首都圏のある駅を選び、半径300メートル周辺を歩くと、全部で23店舗あった。その一つで話を聞いた。
「同一チェーンで挟み込んで他のチェーンをつぶしましょう」。コンビニチェーン加盟店のオーナー、佐藤信夫さん(仮名)は昨秋、店を訪れ威勢のいいことを言う本部の社員の前で、怒りの言葉をぐっとのみ込んだ。「おれたちは挟み将棋の駒じゃないぞ」
約200メートル離れた駅のそばに同一チェーンの店がオープンしたばかり。その間に、他チェーンのコンビニが2店舗ある。客争奪の激化でつぶすどころか、こちらが共倒れしかねない。
業界最大手のセブン−イレブン・ジャパンと3位のファミリーマートは今年度、それぞれ新たに1500店の出店計画を発表。2位のローソンも950店の新規出店を目指す。今やコンビニは社会インフラで、住民に欠かせない存在だと佐藤さんも思う。でも、この疲弊感は何だろう。
「もっと弾を込めて戦わないとダメですよ」。本部社員から何度も指導されてきた。「弾」とは商品。仕入れを増やさないと品切れを起こし、客を逃す「機会損失」が起きるという。だが発注を増やせば売れ残り、オーナーが損をかぶるリスクは高まる。
コンビニチェーンは「利益」の計算に特色がある。定価100円、仕入れ値70円のおにぎりを10個仕入れ、半分の5個しか売れなかったら、仕入れ額700円で売り上げは500円。つまり200円の赤字だ。ところが、本部は売れた5個のみを対象に利益を計算する。仕入れ額350円、売り上げ500円で150円の「利益」とする。その一定割合をロイヤルティー(商標使用などの対価)として各店から吸い上げる。売れ残った5個の損失は、原則オーナーの負担。本部は店舗数を拡大し、全体の売り上げが伸びるほど利益が出るが、売れ残りが増えれば店の負担は大きくなる。
経済産業省の調査では、昨年1〜11月のコンビニ既存店の売り上げは6月と11月を除いて前年同月より減少。新規出店により業界全体の売り上げは伸びたが、競合にさらされる既存店は総じて伸び悩んでいる。
佐藤さんがコンビニを始めた約15年前、周辺に競合店はなく、売り上げは同一チェーンの平均を上回る1日70万円台を記録した。しかし周りにコンビニが急増すると、売り上げは同50万円台まで減少。やむを得ず売れ残った商品を値引きする「見切り販売」を始めた。
大手コンビニ本部は「価格競争が激化する」と見切り販売を禁じてきたが、2009年に公正取引委員会が独占禁止法違反でセブン−イレブンに排除措置命令を出して以来、他チェーンも含め値下げは容認された。佐藤さんの場合、月50万円近かった廃棄品の負担が半減し、経営は安定した。ただ見切り販売をする加盟店はわずかだ。「本部から『客の信頼を損なう』などと言われ、みんな契約更新を拒否されるのが怖くて踏み切れないんでしょう」
見切りができなければ「弾」を撃ち合って、売り上げを上げるしかない。だが競合激化で頭打ち。「オーナー」とは名ばかりで、加盟店主は「一兵卒」にすぎないと佐藤さんは思う。
仙台市の高橋守さん(仮名)は「お店をやりたい」という妻の希望をかなえるため約30年前、脱サラしてコンビニチェーン加盟店を始めた。夫婦で働いてきたが、最近はアルバイトの確保に苦しむ。「これだけ店が増えると、簡単に見つからない」
毎週、スタッフ募集の広告を求人誌に載せるが、昨年11月から応募がない。提示している時給は750円で、宮城県の最低賃金696円を54円上回る。最低賃金が685円だった一昨年秋の募集時は5円増しの690円だった。
店では長時間勤務をこなすスタッフの1人が辞め、他のメンバーも負担増を嫌がり次々と退職。15人ほどのスタッフが6人になった。同じ求人誌で時給770円や800円をうたうコンビニもある。夫婦で店を営む高橋さんの月収は80万円程度あったが、時給アップで人件費が月20万円も増えた。他店に対抗しようとさらに時給を上げれば、自分の首が絞まる。
加えて電子マネーやマルチコピー機など、提供するサービスは「どれだけ増えたかわからない」。仕事を覚えきれず辞める人もいる。目立つのは外国人留学生で、比較的時給が高い都市部では、応募の大半が外国人という店もある。
なおも成長という「青い鳥」を追いかけるコンビニ業界。各社の広報担当は「出店の余地はまだ大きい」と口をそろえる。だが、高橋さんがコンビニを始めた当時60店以上あった地元商店街の会員は20店余りに減った。自分が頑張ったぶん、地域が疲弊したのか。どこか割り切れない気持ちを抱きながら、きょうも店に立つ。
Tags: 毎日新聞