男の気持ち 変わらぬ気持ち 毎日新聞 20140524
結婚後55周年になります。定年退職後、苦労をかけたお返しにと夕食は自分が作ることに決めました。
メニューから食後の片付けまですべてです。
「おいしい!」と喜んでくれるのでやりがいを感じていました。
7年前、妻は悪性リンパ腫の末期と診断されて6カ月入院、化学療法を受け命拾いをしました。
しかし、背骨腰部の神経が侵され、歩行困難となり、老老介護を余儀なくされました。
間もなく自分も食道がんを発症、2カ月入院して化学療法を受けました。
妻は市内の老人ホームに短期入所。
私が退院後も老老介護を続けましたが、入浴、トイレなどで妻を支えきれず、
2人で転倒することもあり、老老介護の限界を知り、ホームへ入所をお願いしました。
自分を責めるようになったのはそれからでした。介護から逃げたのか。
頑張れば一緒に生活できたのではないか。
妻を捨てたのか。日夜自分を責め続けました。
1日おきに面会に行くのもそのためでした。
当初、「いつ帰れるの」「私も一緒に帰る」「どうして家へ帰ってはいけないの」と
涙を流して訴えられると、言葉に詰まり、説明のしようがありませんでした。
入所して2年。このごろは慣れたのか、面会に行くと「うれしいわ」と周囲の目もはばからず手を取って喜びます。
帰り際には必ず「今度いつ来てくれるの」と次回を確かめ、手を振って見送ってくれます。
老いは肉体をむしばみますが、男も女も気持ちだけは変わらぬようです。
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