余録 秋が深まると、温泉が恋しくなる。テレビの旅… 毎日新聞 20141102
秋が深まると、温泉が恋しくなる。テレビの旅番組を見て、
全国の「秘湯」や「名湯」を訪ねたつもりになるのも楽しい。
温泉と同じように地下深くのマグマが熱した水を利用するのが地熱発電である。
「資源のない日本のために、神様が与えてくれた発電だと思いませんか」。
そう問いかけるのは真山仁さんの小説「マグマ」(角川文庫)に登場する地熱開発会社の会長だ。
日本は米国、インドネシアに次ぐ世界3位の地熱資源量を有する。
しかし、使っているのはその数%に過ぎない。
福島県柳津町の東北電力柳津西山地熱発電所は国内有数の地熱発電所だ。
奥会津の山あいでレンガ色のタービン建屋が低いうなりを上げている。
熱水は地下2000メートル前後の地層から16本の井戸を通じて噴き上がる。
二酸化炭素はほとんど出さない。発電量は昼夜を問わず一定に保てる。
大きなメリットがあるのに地熱はなぜ普及しないのか。
多くの候補地が集まる国立公園は開発が規制されている。
自然条件が厳しく大型化が難しい。
柳津西山でも発電能力は火力や原子力発電所の10分の1に満たない。
事業者は「割に合わない」と思うのかもしれない。
しかし、柳津では発電所が町の観光スポットになって温泉宿と共存している。
地元に雇用の機会も提供している。小規模なりに地域と共生する道もあるのだ。
「(地熱)停滞の最大の理由は電力会社が原発という神の火を手に入れたこと」。
「マグマ」の中で会長が語る。それはフィクションの中の話だが、福島の事故は現実だ。
制御しきれない「神の火」よりも、「神様が与えてくれた発電」に目を向けたい。
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