余録 毎日新聞 2015年06月22日
世界150カ国、10万人以上の会員を持つスローフード運動は1980年代半ば、ローマの名所スペイン広場にマクドナルドが開店したことに危機感を覚えたイタリア人男性の提唱によって始まった。
普及の背景には効率や速さよりも暮らしのゆとりや質を重視するスローライフへのあこがれ、共感がある。近年、加速する情報化社会への疑問からスローメディアという考え方が生まれ実践されている。
福岡県久留米市の屏水(へいすい)中学校区では2008年からテレビ、パソコン、スマートフォンなどの映像メディアに接する時間を減らす取り組みが続いている。題して「スローメディア・プロジェクト」。親子で会話する時間を増やし、本や新聞などの活字メディアに接する機会を設けるのが狙いだ。
プロジェクトの発足に関わった久留米市立草野小学校教頭の松尾治利(まつお・はるとし)さんによると、以前は夜更かしなどで生活のリズムが崩れ、学びの場が成立しにくくなっていたという。「世の中の流れに乗るのではなく、自分の頭で考える習慣を子どものころから身につけてほしい」と松尾さんは話している。
本紙などが昨年実施した学校読書調査によれば、小学生の91%、中学生の94%が世の中の出来事を知る手段として「テレビ」を挙げた。「携帯やスマホ」を情報源としている小学生は27%、中学生は46%で5年前に比べて激増した。
タブレット端末などで学ぶ「デジタル教科書」の導入が検討されている。ほしい情報に素早くアクセスできる映像メディアは魅力だが、向かい合って言葉を交わし、情報をじっくり味わうスローメディアの可能性にも目を向けたい。
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