男の気持ち 日記の処分

 
毎日新聞2017年6月1日 東京朝刊

 毎日、1日を振り返り日記を書いて58年余になる。

 最初に書き始めたのは大学受験に失敗し、自宅で浪人生活を送ることになってである。当初は大学ノートに書き、5行ほどの短い日もあれば、思いのたけを3ページにわたって書いた日もあった。結婚が決まった時、それまで9年間の日記は処分したが、浪人時代の分だけは残していた。その後の日記帳も年ごとにたまっていくので、最近になって古い順に処分していった。いま手元には過去10年分を残している。

 浪人時代の大学ノート3冊分の日記帳には、不合格で落ち込んだときの気持ちや、長男の私に家を継いでほしいと願う母への思い、友との別れ、将来の進路への不安や心の葛藤など、悩んだことを書き連ねている。

 「おまえにはおまえの人生がある」

 この父の一言が私の気持ちを楽にさせ、進路を決断できたことを書いている。社会人となった後も仕事が思うようにいかず落ち込んだり、転職などで悩んだりしたときは取り出して読み、元気を回復してきた。

 後期高齢者になり、終活の始めとして、これまで捨てられず手元に置いていた3冊すべてをもう一度読み返し、若いときの悩みや苦しみ、それを乗り越えて今日があることを肝に銘じ、日記帳を処分した。

 いずれ私がこの世を去るとき、最近の10年間の日記だけは残る。これらについては、妻や娘に処分を託したいと思っている。

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