食品ロスに心痛める

論プラス オピニオン
食品ロス削減推進法施行 まず消費者が変わる時 論説委員・元村有希子
毎日新聞2019年11月7日

まだ食べられる状態の食品を捨てる「食品ロス」削減に向け、国民運動を促す「食品ロス削減推進法」が10月施行された。農林水産省と環境省の推計によると、国内の食品ロスは643万トン(2016年度)。1300万人の東京都民が1年間に口にする量に匹敵する。世界共通の課題でもあり、メーカーから小売店、家庭まで削減に取り組む必要がある。新法をきっかけに、大量生産・大量消費の暮らし方を見直したい。

過度な鮮度志向、再考を
食品ロスは事業系と家庭系に大別される。事業系は、食品製造段階での食材の切れ端など▽店頭での賞味期限前の撤去▽飲食店での食べ残しなど。家庭系は、家庭での食べ残し、使い残しが中心だ。

食品ごみの減量を業者に義務づける「食品リサイクル法」(01年施行)により、事業系の食品ロスは00年度の547万トンから16年度は352万トンまで減ったが、政府目標の「半減」には遠い。全体の45%を占める家庭系はこれからで、新法は国民の役割の重要性を強調している。

食品ロス問題に詳しいジャーナリストの井出留美さんは「消費者の鮮度志向、それに小売店が過剰に応え、その圧力に卸やメーカーが応える構造が問題」と指摘する。

業界には「3分の1ルール」と呼ばれる商慣習がある。賞味期限6カ月の加工食品の場合、メーカーは製造から2カ月以内の商品しか納品できず、小売店では同4カ月までしか販売できない。つまり賞味期限まで2カ月もあるのに、その食品は捨てられてしまうことになる。

このルールは、政府が見直しを要請している。10月下旬に公表された進捗(しんちょく)状況によると、売上高総額で全国の8~9割を占める総合スーパーやコンビニなど94社が、賞味期限の長い清涼飲料や菓子で納品期限を見直すなどしていた。

コンビニ「セイコーマート」1200店舗を運営するセコマ(札幌市)は以前から「3分の1ルール」を採用していない。傘下に農業生産法人や食品製造会社、物流会社を持つため、食品ロスが出ないよう柔軟に運用できるのだ。「市場に出せない規格外の野菜を生産者から買って総菜を作ったり、肉の切れ端をパスタソースにしたり、賞味期限が近い食品は各店舗の判断で値引きしたりしている。生産から店頭まで全体で無駄を見直すことで、顧客に価格で還元できる」(広報部)という。

無駄は経済的損失に直結する。みずほ総研は、公表済みのデータを基に事業系食品ロスのコストを試算した。スーパーで年間4490億円、外食産業で同2986億円、計7500億円規模。これに廃棄・処分費用が加わり、最終的には消費者がコストを負担することになる。

私たちにできることは何か。例えば賞味期限は、食品としての安全性を保証する「消費期限」とは異なる。期限を過ぎたからといってすぐに食べられなくなるわけではない。だが、井出さんの調査では「(賞味期限が少し長い)棚の奥の商品を買ったことがある」人が89%もいた。正しい知識を学び、状況に応じて節度ある消費を心がけたい。

「恵方巻き」の大量廃棄が社会問題化したことなどを背景に、ファミリーマートは今年、季節商品を完全予約制に切り替えた。「土用丑(うし)の日」にちなんだウナギ弁当の場合、売り上げは2割減ったが、廃棄費用が激減したため加盟店の利益は7割増。加盟店からのロイヤルティーを基にした本部利益も前年並みだった。

ごみ行政を担う自治体にも、できることは多い。

市民1人あたりの家庭ごみ排出量が1日399グラムと政令市最少の京都市は15年、自治体では初めて食品ロス削減をうたう「しまつのこころ条例」を作った。しまつは「もったいない」の精神に通じる京ことばだ。

1970年代からごみ削減に取り組み、実測値に基づいて「世帯あたりの食品ロスは毎月5000円相当」と試算した。家庭には「食べきり、使いきり、(生ごみの)水切り」の「3キリ運動」、小売店へは販売期限延長を呼びかけ、削減努力をしている飲食店の認証制度も作った。

新法は自治体の責務を明記している。推進計画の策定、政策立案、消費者の啓発などだ。だが、同法には罰則などの強制力がないため、取り組みの実効性には課題も残る。

たとえば、賞味期限前の未使用食品を貧困家庭に贈る民間の「フードバンク」活動を自治体が支援すると定めるが、フードバンク発祥の米国では一歩踏み込んで、寄付食品でトラブルが起きても寄付者が責任を問われない仕組みがある。

国民の多くが抱く「もったいない」意識を具体的な結果につなげるには、こうした制度面からの支援も欠かせない。

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