男の気持ち やっとわかった
毎日新聞2020年8月2日
昔の人が言ったことは正しいことが多い。
「若いうちに読書を。なかでも大作に挑め」と、よく聞かされていた。柔軟性のある若い心には名作が効くのかな、と能天気に解釈していたが、そんな甘いものではなかった。実際には目がショボショボして読み続けることができなくなるのだ。この年齢になって初めて、納得できた。
「老眼になったら読みたい本も読めなくなるぞ」とストレートに脅かしてくれればよかったのに。夕方になると誤読を連発し、1文字違いでとんでもないストーリーになる。「えっ、まさか」と読み返して誤読に気付き、1人でツッコんで笑う。はたから見たら不気味なおじいさんだ。
約束のある店をインターネットで検索するが、住所も連絡先の電話番号も小さくて見えない。途方に暮れ、半べそをかきながら画面に見入っているうちに簡単に拡大できることに気付き、ホッとする。父が昔、よく賞味期限切れのものを冷蔵庫に放置していたが、あれは見えなかったのかと合点した。あのとき、邪険にしてごめんなさい。
初めての体験は、私を謙虚にしてくれる。
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