女の気持ち 着物の価値って 神奈川県小田原市・宇都山久枝
毎日新聞 20201022
その朝、「お母さん、ごめんね」と仏壇に手を合わせました。
古希を迎えて、夫婦でスリムに暮らしたいとあれこれ整理を始めました。思いきって和だんすを処分することに決め、着物の引き取りをお願いしたのです。
ネットで調べた業者から、20代の男性がやってきました。礼儀よくマニュアル通りの説明をした後、1枚ごとに襟や袖、裾を広げ、スマホでパチパチ写真を撮って即、本部へ転送。数分後には着物のランクや買い取り額が表示されるシステムです。
大島紬(つむぎ)をはじめ付け下げ、小紋などの着物が13枚、帯も袋、名古屋など13本。作家ものこそありませんが、有名な着物雑誌の表紙を飾った訪問着もあります。いくつかは未使用で、帯揚げや帯留め、羽織や道行き、雨コート類も。なのに本部から示された回答は、信じられない低価格。
あぜんとしました。着物好きな母がやり繰りしてそろえてくれたものや、私が買い足したもの。それぞれに思い入れがあります。聞けば、これらは観光地での着付け体験用になったり、海外に流れたりするそう。でも、いくらなんでもこの価格では……。
結局、売るのは断りました。夫も「ほしい人にあげればいい」と言ってくれました。私ももう少し、着物のリメークをやってみましょうか。
終活って、心身ともに疲れるものです。
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