Dr.中川のがんの時代を暮らす

Dr.中川のがんの時代を暮らす

~毎日新聞20110717~

3 検診受診率、日本は低迷
 
東京電力福島第1原発の事故による健康影響が一般の人にあるとすれば、発がんリスクの上昇です。がんで命を落とさないためにどうすればよいのでしょうか。

 これまでもお話ししてきましたが、がんにならない生活習慣と早期発見の「二段構え」が一番大切です。早期がんは症状が出ず、症状が出たら進行・末期がんです。つまり、早期発見とは「定期的な検診=がん検診」といえます。

 たとえば、乳がんの場合、一つのがん細胞が1センチになるには15年以上かかりますが、1センチから2センチになるのは2年足らずです。1センチ以下のがんを診断することは簡単ではない一方、早期乳がんとは2センチ以下を指しますから、1~2センチ間が診断可能な早期乳がんといえます。このため、2年に1度検査すれば、乳がんになっても、早期発見できるというわけです。

 ところが、日本では、がん検診受診率が低迷しています。欧米の乳がんや子宮がんの検診受診率は7~8割に達しますが、日本は2割程度でした。先進国の中で、がん死亡数が増えているのは日本くらい。これは、検診受診率の低さが大きな要因といわれます。

 今月12日に発表された国民生活基礎調査で昨年のがん検診受診率が公表されました。胃(男性34・3%、女性26・3%)、大腸(同27・4%、同22・6%)、肺(同24・9%、同21・2%)のがん検診受診率はあまり上がりませんでしたが、子宮がんの受診率は3ポイント増の24・3%、乳がんは4ポイント増の24・3%でした。子宮がんと乳がんは2年に1度の受診が原則で、過去2年に受診した人の割合は全体で3割、若い世代では4割を超えました。私も普及に関わった女性がんの「無料クーポン券」が有効だったと感じています。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

 

~毎日新聞20110731~

4 生き物と縁が深い放射線
 
全国各地の肉牛から高い放射性セシウムが検出されて、大騒ぎとなっています。福島県南相馬市の生産者から東京都の食肉処理場に搬入された牛では、国の暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)の6倍以上の3200ベクレルが検出されました。この事態を引き起こした原因は、3月に東京電力福島第1原発から大気中に放出された放射性セシウムです。

 原発から風に流され、雨と一緒に地上へ落ちたセシウムは土などに蓄積し、ガンマ線を出しています。これが今も福島で「空間放射線量」が高い原因となっています。降り注いだセシウムは、牧草地も汚染しました。牧草については、4月の時点で暫定許容値(1キロ当たり300ベクレル)が設定され、検査が実施されてきました。ただし、肉牛の飼料となる「稲わら」については、検査が徹底されませんでした。

 屋外に置かれて、セシウムを含む雨にぬれた稲わらが、宮城県や福島県などから、全国に出荷されていたのです。セシウム137の半減期は約30年ですから、4カ月前に汚染された稲わらの放射能は、ほとんど減っていません。行政が農家などに繰り返し注意を呼びかけるべきだった、と残念に思います。

 一方、牛の体内に入ったセシウムは尿などと一緒に排せつされますから、3カ月程度で半減します。また、仮に1キロ当たり3200ベクレルの牛肉を、ステーキとして200グラム食べても、0・01ミリシーベルト程度を被ばくするに過ぎません。

 そもそも私たちは、食物から年間で0・4ミリシーベルトの「内部被ばく」を受けています。主な原因は、野菜や果物などに含まれる天然の放射性カリウムです。カリウムを多く含むバナナ1本で、約0・0001ミリシーベルトの被ばくになります。

 生命の維持に不可欠なカリウムの約0・01%が放射性カリウムです。体重60キロの男性の場合、体内に約120グラムのカリウムが存在しますが、放射性カリウムは、そのうち0・012グラムで、放射能に換算すると4000ベクレルに上ります。

 つまり、私たちは、放射線を被ばくするとともに、体内から放射線を出してもいます。隣に寝ている人に対して、年間0・02ミリシーベルトくらいの被ばくをさせていると言われます。つくづく、生き物と放射線は縁が深いのです。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

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