毎日新聞紙面より

女の気持ち 旅立った娘 ~毎日新聞20120526~

今年になって、昨年の今ごろは、と思う日が多くなりました。

娘夫婦の隣に住むようになって3年がたったころ、幸せが足元から崩れ始めた。娘の胸に、がん細胞がすみついたのです。そして2年8カ月の闘病のかいもなく、私より先に逝ってしまいました。

東日本大震災が起きた昨年3月11日、娘は病院で抗がん剤の投与中でした。津波で多くの命が奪われたニュースを見て「私は生かされているのだから頑張って治療する」と、折れかけていた自分の心に言い聞かせていました。

その後、奇跡かと思うほど元気になり、暑かった夏も乗り越えました。

がんと共に生きていこうと抗がん剤を減らして漢方薬を併用し、完治は無理でも日常生活が少しでも楽になればと思っていたのに。がん細胞はリンパの流れに乗って暴れ始めたのです。

微熱が続くようになって、11月21日に7回目の入院。その前日に2人でお風呂に入り、小さくなった背中を流しました。「お母さん、私もうどうしていいか分からない」と2人で泣きました。

入院して3週間がたち、「今夜は泊まってください」と看護師さんから告げられました。一歩一歩天国への階段を上り始めていたのでしょう。12月12日の明け方に、私としっかり手を握り合って、静かに旅立っていったのです。

43歳の短い人生でした。丈夫な体に産んであげられなかった、それだけを悔いる母です。

茨城県県版より

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20120527-m

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