産経新聞 『寒蛙(かんがえる)と六鼠(むちゅう)』

論説委員・長辻象平 太陽がおかしい
2013.3.19 03:14
気候がおかしい。この数年、夏が途方もない暑さであるのに対し、冬は凍(い)てつく寒波に襲われている。地球温暖化が続いているはずだが、欧米でも記録的な豪雪がニュースになっている。
あたかも地球の自転軸の傾きが増したかのような寒暖の開きだが、実は地球にではなく、太陽で気になる変化が進行中だ。
その異変とは、太陽の表面に点在する黒点の数の減少だ。研究者たちは、ほぼ200年ぶりの異変として注目している。黒点の減少は、太陽活動の低下を意味する現象なので、地球にとっての重大事だ。
実は、こうした黒点の減少は、過去にも例がある。黒点の観測が始まって間もない1645~1715年ごろの約70年間と1800年前後の約30年間などだ。
両期間とも地球の気候は、厳冬や冷夏の続く寒冷期になっていた。英国ではテムズ川が氷結したり、日本では江戸の隅田川が凍って舟荷の輸送に支障が出たりしている。
近年の異変は、黒点の増減の周期にも表れている。グラフに描くと、黒点の数は11年の基本周期で山と谷を繰り返すのだが、この周期にも狂いが生じている。山の高さが低くなるとともに、裾野の幅が広がっているのだ。
歴史上の例でも寒冷期には、やはり黒点周期の裾野が拡大している。現時点ではまだ、地球の気候が寒冷化に向かうと即断できないものの不気味な予兆だ。
太陽に生じている異変は、これだけでない。もっとすごい現象が日本の太陽観測衛星「ひので」による研究でほぼ確実になっている。
国立天文台の常田佐久教授らによると「太陽が4つの極を持つ」という変則的な構造の出現だ。
太陽には、南北にSとNの2つの磁極が存在しているが、安定した地球の磁極と異なり、11年ごとにS極とN極が入れ替わる。普通は円滑に替わるのだが、昨年1月の観測では南北ともN極という異常状態に向かっていた。その結果、太陽の赤道付近に2つのS極が出現し、計4つの磁極を持つことになったのだ。
1645年からの黒点減少期・寒冷気候期にも太陽は4極構造だった可能性が高いので、この変化から目が離せない。今後を見極める上で指標となる黒点数の次の山は、今年の秋ごろの到来だ。
今秋以降、黒点数は減っていく。その減り方などから数百年ぶりに長期にわたる極小期が訪れるかどうかが明確になってくる。世界の太陽研究者の間では、太陽の活動低下を予測する声が増えているという。
太陽活動が長い極小期に入れば、その影響は無視できない。二酸化炭素による地球温暖化と、太陽に起因する地球寒冷化が、大気現象としてせめぎ合い、より複雑な気候変動をもたらすことも考えられる。
一方で、国の中長期の温暖化対策やエネルギー計画では、2030年などが目標年に設定されている。計画策定では太陽の活動低下を視野に入れておくことが望ましい。
政府は宇宙開発で、実用的な測位衛星や地上観測衛星などに力を集中しようとしているが、それだけでは世界に日本の存在感を示せない。
ひのでは2006年に打ち上げられた科学衛星だ。太陽の精密観測に空白期を作らないためにも機能の充実した後継機が必要だ。太陽の活動異変はSFでない。

論説委員の長辻象平さん『太陽がおかしい』 産経新聞20130319

気候がおかしい。この数年、夏が途方もない暑さであるのに対し、冬は凍(い)てつく寒波に襲われている。地球温暖化が続いているはずだが、欧米でも記録的な豪雪がニュースになっている。

あたかも地球の自転軸の傾きが増したかのような寒暖の開きだが、実は地球にではなく、太陽で気になる変化が進行中だ。

その異変とは、太陽の表面に点在する黒点の数の減少だ。研究者たちは、ほぼ200年ぶりの異変として注目している。黒点の減少は、太陽活動の低下を意味する現象なので、地球にとっての重大事だ。

実は、こうした黒点の減少は、過去にも例がある。黒点の観測が始まって間もない1645~1715年ごろの約70年間と1800年前後の約30年間などだ。

両期間とも地球の気候は、厳冬や冷夏の続く寒冷期になっていた。英国ではテムズ川が氷結したり、日本では江戸の隅田川が凍って舟荷の輸送に支障が出たりしている。

近年の異変は、黒点の増減の周期にも表れている。グラフに描くと、黒点の数は11年の基本周期で山と谷を繰り返すのだが、この周期にも狂いが生じている。山の高さが低くなるとともに、裾野の幅が広がっているのだ。

歴史上の例でも寒冷期には、やはり黒点周期の裾野が拡大している。現時点ではまだ、地球の気候が寒冷化に向かうと即断できないものの不気味な予兆だ。

太陽に生じている異変は、これだけでない。もっとすごい現象が日本の太陽観測衛星「ひので」による研究でほぼ確実になっている。

国立天文台の常田佐久教授らによると「太陽が4つの極を持つ」という変則的な構造の出現だ。

太陽には、南北にSとNの2つの磁極が存在しているが、安定した地球の磁極と異なり、11年ごとにS極とN極が入れ替わる。普通は円滑に替わるのだが、昨年1月の観測では南北ともN極という異常状態に向かっていた。その結果、太陽の赤道付近に2つのS極が出現し、計4つの磁極を持つことになったのだ。

1645年からの黒点減少期・寒冷気候期にも太陽は4極構造だった可能性が高いので、この変化から目が離せない。今後を見極める上で指標となる黒点数の次の山は、今年の秋ごろの到来だ。

今秋以降、黒点数は減っていく。その減り方などから数百年ぶりに長期にわたる極小期が訪れるかどうかが明確になってくる。世界の太陽研究者の間では、太陽の活動低下を予測する声が増えているという。

太陽活動が長い極小期に入れば、その影響は無視できない。二酸化炭素による地球温暖化と、太陽に起因する地球寒冷化が、大気現象としてせめぎ合い、より複雑な気候変動をもたらすことも考えられる。

一方で、国の中長期の温暖化対策やエネルギー計画では、2030年などが目標年に設定されている。計画策定では太陽の活動低下を視野に入れておくことが望ましい。

政府は宇宙開発で、実用的な測位衛星や地上観測衛星などに力を集中しようとしているが、それだけでは世界に日本の存在感を示せない。

ひのでは2006年に打ち上げられた科学衛星だ。太陽の精密観測に空白期を作らないためにも機能の充実した後継機が必要だ。太陽の活動異変はSFでない。

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