「物の支配」から解放、生活一変 増える「ミニマリスト」
「ミニマリスト」。英語のミニマル(最低限の)からの造語で、生活に必要最低限の物しか持たない人たちのことだ。節約のためではなく、身の回りの物をできるだけ減らすことで、仕事や趣味に集中して生活の質を高めようという考え方が若者を中心に広がっている。関連書籍の売れ行きも好調で、企業がこうした考えを取り入れる事例もある。
身軽
「これだけで生きていけると気づいたときは、あまりにも身軽になって、衝撃を受けたほどでしたね」。東京都内の出版社に勤める佐々木典士さんは、ネットでミニマリストという生き方を知り、それまでの生活を一変させた。
以前は、いつか読もうと思って買った本、CDや楽器、大型テレビに流行の洋服など多くの物で部屋があふれかえっていた。しかし「本はいつまでも読まず、楽器も置いてあるだけ。服も着ない。それでも、まだ持っていない物に目が行ってしまい、自分は物に支配されていると感じた」と話す。
要らない物は徹底的に処分し、今は小さな押し入れに1年分の衣類数着とソファ兼用の寝具をしまうと、20平方メートルほどのワンルームには何も残らない。「本は1冊だけ買い、読み終わったら誰かにあげる。集中して頭に良く入り、仕事の能率も上がった」と佐々木さん。時間とお金は、旅行や知人と会うことに使い、私生活も充実したという。
自身の生活を著書「ぼくたちに、もうモノは必要ない。」(ワニブックス)にまとめ6月に出版。「終わりのないモノへの追求から一度離れること。これはもう一度『幸せ』について考え始めることでもある」などと訴え、20~30代を中心に好調な売れ行きだ。
リュック1つ
フリーの音楽プロデューサー、伊藤光太さんはさらに徹底していて、「家も必要ない」と話す。リュック1つに収まるパソコン、デジカメ、スマホと、わずかな日用品が持ち物の全て。服は着ている1着だけだ。
東南アジアなど海外を数カ月旅行する合間に、日本のビジネスホテルなどに1カ月ほど滞在。ネットを通じて仕事をしている。「物を持たないと、深く考える時間が増え、発想が豊かになった」と話す。
大阪市で証券会社に勤めブログを発信する肘さん=仮名=は「車や家電など、物の本質と離れたブランド価値に振り回されるのに疲れた」とミニマリストに。プライベートな時間はもっぱら、好きなアイドルグループ「ももいろクローバーZ」のコンサート通いだ。
企業も
「企業も物を減らすことに注目している」と話すのは、銀行勤務を経て、全国百数十社に片付けの効果などを説いている「日本そうじ協会」の今村暁理事長だ。
2年前から同協会の指導を受けている京都市の印刷会社は、2週間使わなかった物は捨てるというルールを決めて社内で徹底。無駄を省いた結果、売上高、利益ともに前年比3割増が続いているという。
今村理事長は「物を減らすことで集中力が高まるのは企業も個人も同じ。多くの物を持つことに価値があった時代は終わった」と指摘している。
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