「煎餅の生地はわがままっ子と同じだ。気温、湿度で微妙に変わる。生地に触った感じで、その日の焼き方が決まる。指先に目があるのと同じだ」−−。1935年創業の「椎名米菓」を経営する椎名一郎さん(79)は先代で創業者の父親、延雄さんの言葉を思い出す。焼き始める最適なタイミングは自ら会得するしかない。
延雄さんは12(大正元)年生まれの口数が少ない頑固な職人だった。一郎さんは中学のころから手伝い、取手一高を卒業後、本格的に家業に励んだ。延雄さんが91年に78歳で死去し、2代目として後を継いだ。
父親譲りの頑固な職人かたぎ。「職人の看板を掲げる以上、指先と経験が武器」と言い切る。原料にもこだわる。ほとんど県内産のうるち米。くず米は一切使わない。しょうゆは「風味と香りを重視して選んだ」千葉県産の業務用特級品だ。
米を50年以上使い続ける製粉機に投入。すり鉢状の仕掛けを通って粉砕し、4段のふるいを通ると、さらっとした米粉に。「古いタイプだが、自分で修理できる」。米粉をふかして練り、延ばして型を取り、焼いて乾燥させる一連の工程はほぼ機械化されている。
名物の「一ノ矢にんにくせんべい」を20年ほど前に商品化した。青森産のニンニクを1年間、しょうゆ漬けにして発酵させる。「ソースせんべい」は顧客の苦情が改良に結びついた。5年ほど前、顧客からもらって食べた東京・銀座の男性から「こんなにベタベタした煎餅は食べたことがない」と電話があった。「自分では満点の出来だと思っていたが、客が認めてくれなければだめだ」。半年ほど改良を重ねてべたつきをなくし、2015年5月に製法の特許を出願した。
一郎さんと妻かつ代さん(78)、長男の妻浩子さん(50)、孫の俊行さん(20)の家族と、従業員3人の計7人が働く。「煎餅作りに妥協はしない。お客様の笑顔が見えてくるような逸品作りを心がけている」と信念を貫く。
椎名米菓
取手市山王87の1。午前8時〜午後7時。元日のみ定休。電話0297・85・8460。「味将軍」(税抜き100円)▽「一ノ矢にんにくせんべい」(同70円)など。