成年後見、市町村に差 利用促進計画、茨城県内進まず
首長申し立て 半数以上が未実施
茨城新聞 20181223
認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人の財産管理や権利を守る「成年後見制度」で、利用促進に向けた市町村の取り組みに温度差が生じている。内閣府は市町村に利用促進基本計画の策定を求めているが、全国でも先進事例は少なく、茨城県内は策定ゼロ。親族がおらず、本人に代わって市町村長が家庭裁判所に申し立てるケースも昨年度、県内の半数以上の自治体で実績ゼロにとどまっている。一方で、取手市など積極的に動きだす市町村も現れ始めた。
暗中模索
「実績がないものには手を出しづらい。担当者も定まっておらず、予算も付きづらい。計画策定など暗中模索だ」。県内のある自治体の高齢福祉担当者は、成年後見制度の利用促進に対する市町村の取り組みの難しさを吐露した。
内閣府は昨年、制度の利用促進に向け、市町村に基本計画の策定や関係職種でつくる協議会、事務局となる中核機関の設置を努力義務として求めた。成年後見制度の利用が思うように広まらないため、市町村が中心となって利用促進をけん引してもらう狙いだ。
しかし、市町村によっては成年後見制度の担当者が不在だったり、高齢福祉と障害福祉の部署にまたがり一貫して対応できないことも多い。職員が制度に関する法的知識に乏しく、訴訟リスクを恐れて手を付けられない事例もあるという。
県地域ケア推進課の担当者は「市町村において成年後見制度の優先順位はまだ高いとは言えない。認知症高齢者が増える中、重点的に取り組むよう呼び掛けを強めていく必要がある」と話す。
利用伸び悩み
成年後見制度は、介護保険制度とともに2000年4月にスタートしたが、利用は伸び悩んでいる。65歳以上の認知症高齢者が15年に500万人を超えたが、同制度の利用者は17年末時点で約21万人にとどまり、認知症高齢者の1割に満たない状況だ。
みずほ情報総研が17年に実施した調査によると、認知症の家族の金銭管理を手伝った人のうち、「成年後見制度を知っているが、利用するつもりがない人」が55・4%と半数を上回り、「利用している人」は6・4%にとどまった。
一般市民への浸透が不十分なほか、家裁への申し立て手続きの複雑さなどが普及の進まない背景として浮かび上がっている。
取手市が条例
取手市は今月、県内で初めて、成年後見制度利用促進に関する審議会設置の条例を制定した。18日には早速、弁護士や司法書士、介護福祉士など、審議会メンバー候補者による意見交換会が開かれた。市は20年度に中核機関の設置を目指す考えだ。
先進的な取り組みの背景にあるのは市内での利用ニーズの増加。市高齢福祉課は「家族の協力を得られなかったり、身寄りがなかったりする認知症高齢者が増えている」と説明する。
本人に代わって市町村長が家裁に申し立てた件数は昨年度、県内で計76件。うち、取手市は14件と最多を数える。本年度は今月17日までに26件に上り、全て高齢者の事案という。市内4カ所の地域包括支援センターできめ細かく相談に応じていることが、申立件数の増加につながっている。
同課の担当者は「家族関係の希薄化や晩婚化、未婚化で、成年後見制度の必要性は高まっている。関係する職種でネットワークをつくり、各市町村でしっかり担当者を決めて勉強を重ねながら、時間をかけてでもやるしかない」と語る。
成年後見制度
認知症や知的障害、精神障害、発達障害などによって物事を判断する能力が十分でない人について、本人の権利を守る援助者を選ぶことで本人を法律的に支援する制度。本人に十分な判断能力があるうちに契約で決めておく任意後見制度と、本人の判断能力が不十分になった後に家庭裁判所によって成年後見人等が選ばれる法定後見制度がある。