落書き 457万円賠償 取手市に修復費など含め 防止の願い込めた壁画も被害
毎日新聞 2019年6月5日
取手市で昨年、公共物に落書きをしたとして県警に器物損壊容疑で摘発された30代の男性が、修復費などを含む賠償金457万円を同市に支払ったことが、市への取材で判明した。市は昨年2~4月に市内で見つかった6件の落書きに、男性が関与したと認定した。
うち1件は、藤代大橋(同市藤代)の下にある壁画作品だった。外壁など公共物への落書きに頭を悩ませた市が「美しい絵を描けば落書きを防げるはず」と考え、制作を企画した壁画だった。
管理する市文化芸術課の担当者は「芸術作品が損なわれたことに加えて、落書き防止の願いを込めた壁画が被害を受け、二重のショックだ」と話す。壁画への落書きによる損害が賠償されるのは珍しいという。
壁画は縦5メートル、横26メートルの大きさで、2007年に完成した。自然の情景を描いた作品で、段階的に変化する色調が特徴だ。東京芸術大生の原画をもとに、別の学生や教員が制作した。
落書きが見つかったのは昨年4月。黒のスプレーを使って、×印や漢字が4カ所に書かれた。応急措置でほぼ消したが、完全に修復するには美術家が一部を描き直さなければならず、284万円の修復費を見積もった。
東京芸大が取手市にキャンパスを置くことから、市は芸大と協力して「アートによる街づくり」を進めている。公共物の壁画は約20年前から取り組み、高架下や取手駅のコンクリート擁壁など16カ所に完成している。
他の被害は、相野谷川に架かるコンクリート橋「土橋」の名前や完成年月を記した親柱(石碑)3基。赤い塗料を完全に消すことができず、3基とも交換する。
市立取手東小と藤代小の正門、久賀保育所の変電設備、JR常磐線をまたぐ桑原陸橋も被害を受けた。上塗りするなどして消したため、賠償額には人件費や材料費が含まれている。
市によると、男性は世の中への不満から落書きをしたらしい。市は男性の代理人弁護士と交渉し、昨年9月に示談が成立。二度としないように文書で指導し、男性側からは謝罪を受けたという。