後始末

女の気持ち ヤマユリ 

毎日新聞2019年8月5日

 障害のある長男を残し、次男が事故でこの世を去ってから40年が過ぎた。家族3人での生活も、加齢とともに不安になってきた。

 幸いに、長男は多くの方々のご尽力でよいグループホームに入居でき、ほっとしている。私たちも自分たちで、自らの後始末をしなくてはいけないと考え、自宅を処分し、3月末に高齢者住宅に居を移した。

 山の頂にある新しい施設で、いまだに入居者は多くないがサービスがよく、安心できる。引っ越しから転居通知の発送、来客の対応などと、多忙な日々が過ぎてようやく落ち着いてきたころに突然、むなしさが襲ってきた。

 何もしたくなかった。夫は好きだった絵も描かなくなった。私も、読書に気がのらない。ぼんやりして過ごす日が多くなり、以前の生活が恋しく思えてきた。

 ある日、部屋の外の雑木林にユリのつぼみらしいものがあることに気づいた。こんなやぶの中で育つなんて、と信じられなかった。

 先月末、朝になって窓のカーテンを開けて外を見ると、大きく、真っ白なヤマユリの花が一輪、咲いていた。目に映る風景が、昨日までとは全く異なるもののように感じられた。何だかとてもうれしくなった。

 その姿は、まるで「私だって、このやぶでたった一人、一生懸命生きているんだよ」と言っているようだ。当分は、ヤマユリの花に元気をもらえそうだ。ありがとう。

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