本田作左衛門

茨城新聞 20210111

いばらき春秋

徳川家康に仕えた取手市ゆかりの武将・本多作(さく)左(ざ)衛(え)門(もん)にはこんな話が伝わる。家康が背中にできた腫れ物に苦しんでいたときのことだ。

家康はあまりの痛みに家臣らを枕元に集め「お前らには世話になった」と弱音を吐き始めた。皆黙ってうなだれる中、「たかが腫れ物ぐらいで笑止千万」と一人声を荒らげたのが作左衛門。「鬼(おに)作(さく)左(ざ)」の異名を持つ猛将はこう突き放した。「そんなに痛いなら薬(やく)師(し)をお呼びなされ」

これを家康は「どうせ薬師はきゅうを据えるのであろうが、効くかどうか分からぬ。薬師など要らぬわ」と即座に拒否。すると作左衛門は「ならば私が一足先に冥土に参り、あの世で掃除でもしておきまする」と切腹しようとする。

「待て。待て。わしが悪かった」。家康は慌てて作左衛門をたしなめ薬師のきゅうを受けた。腫れは程なく収まったという(横山茂著「一筆啓上 家康と鬼の本多作左衛門」より要約)

新型コロナの緊急事態宣言が再び出された。効果の程は未知数だが、鍵は人々の行動変容につながるかどうかだろう。

ただ、どんな呼び掛けもいつものパフォーマンスなら人は動かない。大事なのはリーダーのここ一番の覚悟だ。取手に眠る決死の猛将もそうお考えに違いない。

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