毎日新聞 女の気持ち

片付け下手 山形県・匿名(主婦・54歳)

毎日新聞 20210430 

 子どものころから片付けが苦手だった。しつけに厳しく体罰も辞さなかった母は、私を「だらしない!」としょっちゅう叱ったが、何の効果もなかった。それどころか学年が上がるにつれ、部屋の汚さはどんどんひどくなった。

 結婚し主婦になると、私は「整理整頓しなければ」という強迫観念にとりつかれるようになった。しかし、どれほど本や整理グッズを買い込んでも、片付け下手は直らなかった。実家を離れて何年たっても、母からの罵声やぶたれたときの痛み、部屋に踏み込まれたときの恐怖心などが私を悩ませ続けた。

 里帰り出産の折、当時3歳だった長男が母にいじめられたことがダメ押しとなり、心の病気になった。子どもたちに知られないよう「元気なお母さん」を演じながら精神科に通い、薬を飲み続けた。

 そして10年近くたったある日、母が急に亡くなった。「着る服がない」と父に言われて実家へ行き、驚いた。実家の押し入れという押し入れに、母がお嫁に来てから五十数年分の不用品がジグソーパズルのように詰め込まれていたのだ。母の服はたんすに6さお分あった。そういえば、母は「こうすればいいのよ」とやり方を教えてくれることはなかった。たぶん、母自身が片付け下手だったのだ。

 小さいころ、片付け下手を叱らなかったおかげだろうか。私の子どもたちは片付け上手に育っている。

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