風評と戦う営農実験

風評と戦う営農実験  ~朝日新聞2011.06.06~

 
実験農地に植える苗木や花を準備する斉藤博道さんと仲間たち=利根町
 
 利根町で農業を営む斉藤博道さん(41)が、東京電力福島第一原発から出た放射性物質を農地から取り除いたり、新しい農産物作りに挑んだりする実証実験「SAITO
 FARMリバース・プロジェクト」を始めた。東京を中心に県内外の仲間ら30人が利根川沿いの農地に集まり、放射性物質の吸収率が高いとされるヒマワリの種をまき、
大分県から取り寄せたタラノメやコンニャクイモの苗木を植えた。
 斉藤さんはかつて、熊谷組のバスケットボールチーム・旧「ブルインズ」に所属し、日本リーグで優勝したこともある元運動選手。
 今は農産物をつくる会社を経営しているが、福島第一原発事故の風評被害が経営を直撃。農協を通さない都内のレストランや個人宅への直販が7割ほど停止し、「会社を畳まざるを得ない状況」という。
 「原発事故が一向に収束しないため、風評被害はボディーブローのように、この先じわじわきいてくる」と、将来を見据えた営農策を模索するためにプロジェクトを立ち上げたという。
 土壌の安全性を高めるため、約1千平方メートルの実験農地にヒマワリのほか、秋口には放射性物質を吸収する菜の花の種もまき、栽培前と栽培後のセシウムの濃度を分析して除染効果を把握する。放射性物質を吸収した植物の処分方法も検討する。
 農林水産省は米の作付けを禁じる基準を「土壌中の放射性セシウム濃度が1キロ当たり5千ベクレルを超える水田」と設定している。茨城県は、神栖市が455ベクレルと測定されるなど、現時点では問題のないレベルだが、「農家の間で風評に対する不安は依然消えない」という。
 斎藤さんはまた、被災地・復興支援協力キャンペーンと銘打った「ベースボール・クリニック」を今夏、地元で開く計画だ。親しい往年のプロ野球選手が来町し、関東の少年野球の子どもたちを指導する。
 斉藤さんは「被災地の茨城から『負けない心』を発信し続け、1千人余りの震災遺児を支える運動や被災地の動物保護活動にも取り組みたい」と集まった仲間らに呼び掛け、推進団体となる「五輪の会」も立ち上げた。

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