毎日新聞 201404月8
今年の桜は固いつぼみから一気に満開になり、一夜にして街の通りをピンク色に変えてしまった。
桃色の街路樹のアーチを歩きながら思い浮かんだのは「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」。
満開の桜の古木は毎年美しい花を咲き誇らせ楽しませてくれるが、桜をめでる私の状況は1年ごとに変化している。
一人娘の入学、卒業、就職、母の入院、介護、主人の転職、大切な友人との別れや新しい出会い、恩師との再会。
一年として同じ年はない。
必ずどこかで何かが変わっている。
楽しいことだけでなく苦しいこともあった。それが人生なのだろう。
同じ満開の桜でも、それを見る私の心情は毎年微妙に違っている。
心弾んでいる時は鮮やかなピンク色、寂しい時は薄い白、苦しい時は散っていく花びらが妙に美しく見えた。
今年の桜はちょっと悲しい。86歳で1人暮らしをしていた母が認知症になり、2月に施設に移ったからだ。
これから母と一緒に桜をめでる機会が何回あるだろうか。
そう思うと花びらをぬらす雨が冷たく感じられたが、仕事で多忙な中、介護に理解を示してくれる主人や娘に改めて感謝の思いも湧いてくる。
来年の春はどうなっているのか、今は分からない。
でも、どんなにつらく寒い冬が続いても春は必ず来る。
冬の間、枯れ木のようにやせてわびしげにたたずんでいる桜も、暖かくなると芽吹いて見事な花を咲かせ、春を告げる。
来年の桜を私はどんな思いで眺めているのだろうか。