いばらき魅力見つけ隊 取手の坂道

いばらき魅力見つけ隊 取手の坂道 散策の足がかりに道標12カ所
毎日新聞2018年10月16日

長かった酷暑が去り、街の散策に良い季節になった。取手市は南北を流れる利根川と小貝川から中心市街地のある台地に向かって坂道が並ぶ。地元の高齢者らでつくる「取手の坂道愛好会」は、市民から親しまれる市内12の坂に道標を設置し、「坂の街」の魅力を発信している。

取手駅から約5キロ東にある小文間地区を歩いた。同会が道標を建てた「直右衛門坂」は道沿いの住民の屋号で、古くからの通称という。目印となる寺の裏手に回ると、真新しい石の道標を見つけた。利根川に向かって下る緩やかな坂道は、左右を石垣と竹林に挟まれ、時代劇のワンシーンのような風情を醸し出している。

同会は2003年10月に結成され、現在の会員は60~80代の男性14人。会長の酒井達夫さん(81)は東京で生まれ育ち、16年前に千葉県から取手に移り住んだ。「坂道を上り下りすると視点が変わり、景色も違って見え、非日常の感覚を味わえる」と、坂道を歩く魅力を語る。

同会によると、市内には約400もの坂があるといい、「取手の坂道にもっと親しんでほしい」と、名前や由緒を記した道標の設置を進めてきた。

07年に駅周辺の三つの坂道に「さくら坂」「雁耕(がんこう)坂」「治助(じすけ)坂」の道標を建てた。駅東口に向かって上る「さくら坂」は元々の名前ではなく、桜並木があることや、交わる道が旧佐倉藩(千葉県)の飛び地に通じるため「佐倉道」と呼ばれていたことから、同会が「さくら坂」と命名した。

13年には、小文間地区の五つの坂道に「馬(ま)坂」「勘右衛門(かんうえもん)坂」「大日坂」「直右衛門(なおうえもん)坂」「動坂」、翌14年には中心市街地の四つの坂道に「台宿坂」「山中坂」「榎坂」「銀杏(いちょう)坂」の道標を設置した。

酒井さんは「道標を手がかりに、坂道の名前や由緒にも興味を持ってもらい、名前の元になった地域の歴史に関心を持ってほしい」と話す。

同会は12月26日~来年1月8日、駅東西連絡通路の市民ギャラリーで、会員それぞれがお薦めの坂道を紹介する「坂道展」を開く。【安味伸一】

ひとくちメモ
江戸時代に建てられた県文化財「旧取手宿本陣染野家住宅」の裏手を通る旧佐倉道は、車1台分の幅しかない昔ながらの坂道だ。その途中、直角に分岐する石段の坂道には「神明坂」と刻まれた古い石柱がある。建立は「大正二年三月吉日」とあるから、100年以上前の1913年だ。愛好会が建立した道標もやがては歴史の一ページを刻む。

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