<ひと ゆめ みらい>渋谷発 落書き消すアート CLEAN&ART代表・傍嶋賢(そばじまけん)さん
東京新聞 2019年5月6日
壁画と落書きはどう違うのか。「どちらもアートで、オリジナルの著作物。合法か違法かが違うだけ」。東京芸大で壁画を学んだ専門家は、街中の落書きを見れば、どのグループが描いた「作品」かが分かるという。「民家には描かないとか、彼らなりのルールでやっている」。街中で落書きを見つけては撮影しており、スマートフォンには四千枚以上がデータベースとして収まっている。
昨年、落書きされて困っている場所をきれいにする任意団体「CLEAN&ART」を渋谷区で立ち上げた。ゴミ拾いで街をきれいにするNPO法人のメンバーら四人で発起し、現在は区や企業から掃除用具の提供など協力も得る。これまで繁華街のビルや高架下、地下道の落書き十数カ所を消してきた。楽しんで活動する様子をSNSで発信し、参加してくれる有志の輪も広がった。
四人兄弟の三男で、画家の父のもと全員がアート系の仕事に進んだ芸術家一家だ。人と違って当たり前、違いを理解し合うという環境で育ち、芸大の油画専攻へ。学部の間は「個人主義」で、チームで社会活動をしようとは思っていなかった。芸大大学院の壁画研究室に進み、アートを地域コミュニティーともつなげる中村政人教授のもとで学び、考えが変わった。
研究室があったのは茨城県取手市の取手キャンパス。仲間と有志グループを立ち上げ、JR常磐線取手駅近くの高架下に絵を描いたり、市内の店に学生の絵を定期的に配達し飾ってもらう活動をしたりと、地域との関わりを築いていった。画家として独立後は常磐線ホームの待合室のデザインラッピングなどを手掛け、港区に事務所を置く今も取手市に在住する。
もともとは消すより描くほうの画家だ。二年前に事務所を構えた後、都内のあちこちを回り、壁画を描けるような場所を探していた。同時に落書きに困る現状も知り、「緊急性が高い」と感じたのが渋谷区だった。「空間が美しくなるのもアートであり美」と、描くよりまず消すという「アート活動」を始めた。
落書きには内容別に三種類あるという。美術として絵や図で自己表現をする「アート系」、ストリートカルチャーとして縄張りを示し自分たちのサインを文字で表す「ヒップホップ系」、政治的メッセージや社会への訴えを文章でつづる「社会批判系」。数が多いのはヒップホップ系という。
「もっと、街の中に描ける環境をつくりたい。合法的に発散できる場所が必要」と考える。行政や地域と関わる活動は「芸術家が一番やらなそうなこと」。でも、美術館で展覧会をするだけでなく、「身近なところで美術を分かってもらい、社会を変えるきっかけにし、芸術家のイメージも変えたい」と思っている。