茨城新聞 20191118
ICTで保育士確保 事務減へ労働環境整備
取手市 県内初、来年4月公立導入
保育士不足が全国的に深刻化する中、取手市は来春、市内全公立保育所に情報通信技術(ICT)を導入する。手書きの作業を電子化して事務仕事を減らし、保育士が本来の保育業務に充てる時間を増やす。市によると、公立保育所へのICT導入は県内初という。働き方改革で保育士確保につなげたい考えだが、周辺自治体が補助金支給で処遇改善を図る中、ICTだけで保育士を市内へ引き留めることができるかという課題も残る。(取手・龍ケ崎支局・高阿田総司)
■残業が減った
朝のあいさつが交わされる午前9時。同市西の私立稲保育園に子連れの保護者が次々と来園し、入り口に置かれたタブレット型端末に指を触れ、中に入っていく。公立に先駆け、2017年4月からICTを導入した同園の朝の風景だ。
タブレット型端末のタッチパネル操作で児童の登降園を記録。手書きの保育日誌作成や延長保育の料金計算なども電子化した。作業効率化、情報共有化の面で効果が表れ、保育士らは「残業が減った」と話す。
市では20年4月から同様のシステムを公立保育所6カ所に入れる。背景には、県南地域の保育士が待遇の良い東京都内、千葉県内へ働き口を求めて行ってしまうという現状があり、その対抗策として「労働環境整備」を打ち出した。
主に担任を持つ公立保育所の保育士は、ICT活用の研修を受ける。永山保育所(下高井)の保育士、柳沢葉月さん(34)は「貼り紙で伝えていたお知らせも、今後は保護者の携帯端末に直接送ることができる」と導入に前向きだ。
■幼保無償化の影響
政府の幼児教育・保育の無償化が10月に始まってから、稲保育園では、子どもの入園に関する問い合わせの電話や施設見学者が増えている。子どもを預けて働きに出る親が増える「気配」が感じられる。
無償化の影響について、同園の寺内美智子園長(54)は「土曜日も子どもを預け、働く親が増えていくのでは。それに合わせた勤務体制も考えなければ」と変化を見据える。
保育者支援、子育て支援に詳しい筑波大医学医療系・徳田克己教授(61)は「一時保育(3〜5歳児対象、3万7千円まで無料)は増えていくだろう」と予測。「有料のときに3時間だけ子どもを預けていた親が、無料になって長時間預けるようになる。保育施設が子どもを預かる時間が長くなり、保育士の負担は増す。人数は今も足りていないが、保育士確保は今後さらに大変になるはずだ」。
■引き留め策
厚生労働省が今年7月にまとめた保育士の有効求人倍率は2・68倍。求人数が多く、働き手が足りない。保育士確保のため、市の周辺自治体では給料の上乗せ補助による処遇改善を、地元を離れないための引き留め策としている。
千葉県柏市では私立の認可保育園と認定子ども園の保育士へ1人月額4万〜4万3千円を支給。県内の近隣では、つくば市が17年度から私立の常勤保育士に1人月額3万円、土浦市、牛久市、阿見町でも私立の保育士らへ最大1万5千円の補助を出している。
取手市は私立の施設への処遇改善補助こそあるが、保育士への補助金支給制度がない。賃金面では財政力のある自治体が優位に立つため、ICT導入で「高い賃金か、充実した環境か」の選択を保育士に迫る。
市子育て支援課は「子どもが好きで保育士になる人は多い。それなのに、事務仕事に追われてしまっている。ICTで保育士が子どもにかける時間が増えることは、保育士にも子どもにも良いこと」と訴える。