余録 高齢者のデイサービスの居室に野球帽が…
毎日新聞 20140824
高齢者のデイサービスの居室に野球帽が置いてあった。
千葉県多古(たこ)町にできた「多古新町ハウス」は高齢者や障害児のデイサービスを行う多機能型施設である。
そこに県立高校の野球部員が2人住んでいる。
「野球部の監督さんを慕って入学した生徒が下宿を探していたので、ちょうどいいかなと思って」。
ハウスを運営する社会福祉法人「福祉楽団」の飯田大輔(いいだ・だいすけ)サポートセンター長(36)は笑う。
高校とは目と鼻の先だ。
介護をするわけではなく、朝食を済ませると登校していくので、お年寄りとの接点がそうあるわけでもない。
ただ、なんとなく心を和ませるのは、多世代同居が普通だったころを思い出させるからかもしれない。
「災害などの時にはたぶん頼りになりますしね」
隣にある、しゃれたカフェを思わせる「寺子屋」も飯田さんが建てた。
近所の子どもたちに提供している。
「ここは涼しいので勉強ができる」。
日に焼けた女子中学生たちがクーラーの利いた室内で問題集を開いていた。
利用料は取らない。建設費だけでなく電気代も法人の負担だ。
勉強したい人をとことん応援しようと、24時間開放している。座った目線の高さに窓があり、隣のデイサービスが見渡せる。
いつも外の目が入る風通しの良さが、閉鎖的になりがちな福祉施設には必要だ。
開設間もないころ、近所の住人から苦情電話が入った。
「夜中に原付きバイクが止まっている。
不良のたまり場になっているのでは」。
慌ててとんでいったら、若者たちが公務員試験の勉強をしていた。
電話をした住人はすっかり感激して、今では寺子屋の応援団のような存在だという