女の気持ち 今でも迷う
毎日新聞2017年9月15日
高校を卒業して今年で10年。大学院も博士課程3年目になった。将来は大学の先生になって理論を追究するほか、国連機関で働いて国際協力の現場で実務経験も積もうと目標を抱いて、この業界に足を踏み入れた。世界中を駆け巡って、ずっとがむしゃらに突き進んできた。
そんな今夏のある日、妊娠していることに気が付いた。妊娠4週目だった。市販の妊娠検査薬で判明し、病院で確定の診断を受けても、母子手帳をもらいに行った役所で「おめでとうございます!」と言われても素直に喜べなかった。
実感が持てないまま微熱に腹痛につわりといった症状がだんだん重くなっていった。食べられるものが限られ、起きているのもつらくなり、日常生活でさえ1人では困難なことが増えた。こんな状況で出産や育児と大学院を両立させ、研究職や国連職員を目指すのは私にはとても無理だと思った。
これまでやってきたことに終止符を打って結婚して家庭に入り、出産したら、生まれてくる子を心から愛せるのだろうか、幸せにできるのだろうか。いつか何かの折に「あなたのせいで」と子どもを責めてしまわないだろうか。数週間、キャリアと出産のはざまで必死に悩んだ。
もう少し、あと数年だけ時間が欲しい。やりたいことを思う存分追求したら、家事にも育児にも専念したい。そう決心して私は手術を受けた。結果的に、命よりも不確実な未来のキャリアを優先してしまった。正しい決断だったのか今でも迷う。