Archive for 6月 18th, 2018

メモリークリニック取手

月曜日, 6月 18th, 2018

セカンドステージ 認知症とかかわる 表情読み合い、予防に有効
毎日新聞2018年6月17日

社会的な存在である人間にとって、他者とのかかわりは避けて通れない。認知機能の低下を防ぐうえで、人とどのようにコミュニケーションを取っていけばいいのか。認知症の前段階の人や初期の人たちの取り組みから探った。

●孤立なくす「学び舎」

1時間目・体操、2時間目・朗読、3時間目・絵画--。時間割の書かれた黒板の前で、70~80代の女性6人が詩を朗読する。西東京市のNPO法人「サポートハウス年輪」が4月に始めた事業「昭和の学び舎(や)」に地元の人たちが集う。

コンセプトは「ごちゃまぜ」。介護保険で「要支援」認定された人や、より元気な市の介護予防・生活支援サービス事業の対象者の通所サービスとして認可されたが、1回500円の利用料で、子どもから大人まで誰でも参加できる。職員が手伝うので、自分の趣味を生かしたい人は「先生」にもなれる。送迎も行い、孤立を防ぐ工夫が凝らされている。

「こういう場所を求めていた。初心者向けのマージャンも楽しみ」と田中和子さん(86)。カラオケが好きでおしゃべりを楽しむ友人もいるが、病気で入院してから足が弱り、行動範囲が狭くなっていた。介護保険の認定は要支援2。近くのグループホームから参加している認知症の女性が朗読に詰まると、さりげなく声をかける。

頸椎(けいつい)の手術で入院していた女性(74)は市のサービスの対象者。移動が不自由になり、家にこもりがちに。物忘れが増えて心配だった。「認知症の人と一緒に活動し支えることで、自分も認知症について学べるので不安の軽減になる」と励みにしている。

●運動で機能低下防ぐ

「右はグー、チョキ、パー、左はチョキ、チョキ、グー、よく見てくださーい」。茨城県取手市の認知症専門クリニック「メモリークリニック取手」。外部講師で健康運動指導士の藪下典子さんのかけ声で、60~80代の男女30人が左右の手を別々に動かす。「上達しないなあ」。おどけた男性の声に笑い声が起きる。

ダンスでは、5、6人で輪になり、威勢よくタオルを振り回す。同県守谷市から来た男性(80)は「自宅でも毎日体操するが、ここは新しい友人がいていい」。

藪下さんは進行役を務めながら、参加者が感じたことを声に出せる雰囲気づくりをこころがける。「痛い、と感じたら言葉に出して、体のどこが痛いのか意識する。体を通して脳を働かせるわけです。“やりたくない”というネガティブな表現でもよいのです」

このクリニックでは、他に芸術療法、ゲーム、体の特定部位に意識を集中させる筋力トレーニングなどのプログラムがある。認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)や認知症初期と診断された人たちが、週1~3回通う。治療という目的を同じくする仲間とコミュニティーを作る感覚で継続を目指す。理事長で医師の朝田隆・東京医科歯科大学特任教授は、同県利根町の住民1900人を12年間追跡調査し、生活習慣と認知症予防の関係を研究してきた。

「MCIと認知症の初期に限ると、運動は、認知機能低下をある程度まで防ぐ効果がある。メカニズムはまだはっきりしていないが、運動が新しい神経や血管の生成を促し、予備能(潜在的に備わっているが使われてこなかった能力)を引き出すと考えられている」と話す。

●「社会脳」を活用

運動に加えて、機能低下の防止に役立つと見られているのが、人と交流し「社会脳」を活用することだという。

「社会脳」とは何か。哺乳類は、同じ種類の動物でも大きい集団に所属する個体ほど、脳の神経細胞が集まる大脳皮質の層が厚いことがわかっている。神経細胞をたくさん使うため、思考をつかさどる大脳皮質が発達しているわけだ。

大きな集団に属していると、その分、人間関係も複雑になる。群れの中で生きていくためには、相手の表情の変化を見つけ、笑いかけられたら笑みを返し、人の心の動きを理解することが必要になる。相手の過去の言動を記憶しておき、思い出すことも求められる。「相手の好きなこととか、以前こうしたら怒ったな、とか。他者とのかかわりで求められる高度な認知機能が社会脳です。社会脳がさびつけば、その下部にある記憶力や計算力、集中力といった機能も低下するといえます」と朝田さん。利根町の調査では、特に女性の場合、認知症が始まると外出を嫌う傾向が顕著だった。出無精になるのは、認知機能低下のサインかもしれない。

朝田さんによると、交流の相手は大勢でも少数でも、家族でも他人でもよい。知人である必要はなく、一度きりのやりとりでも社会脳を使う。要は、密なつきあいでなくていいのだ。ほめることも大事。「人はほめられればやる気が出る。ほめられたかったら自分も相手をほめる。仲間でほめ合うことも有効です」

高たんぱく質食品で筋肉強化

高齢者の低栄養やそれが引き起こす筋力の低下を背景に、“高たんぱく質食品”に関心が集まり始めた。高たんぱくをうたったそば、うどんまで登場している。どんな食品なのか。

高齢者の低栄養とは、日常の食生活で栄養が足りていない状態をいう。国民健康・栄養調査(2016年)によると、65歳以上の高齢者の17・9%が低栄養傾向にある。伊藤明子・赤坂ファミリークリニック院長(公衆衛生専門医)によると、たんぱく質の摂取が不足すると、筋力や免疫力の低下、情緒不安定、認知機能や思考力の衰えにもつながるという。そこへ運動不足が加わると、筋力が低下して骨格と関節を支える機能が弱くなり、要介護になるリスクが高くなる恐れがある。

国は18歳以上の男性で1日あたり60グラム、女性で50グラムのたんぱく質の摂取を推奨している。100グラムの魚や肉類を食べると約25グラムのたんぱく質がとれる。同様に、大豆製品100グラムだと約5~7グラム、卵100グラム(2・5個相当)だと約12グラムのたんぱく質がとれる。こうした目安を知っていればいいが、手軽にとれる高たんぱく質食品として、ギリシャヨーグルトが人気だ。昔からギリシャでつくられてきた水分の少ない濃縮ヨーグルトで、通常のヨーグルトに比べ、たんぱく質は約2倍(100グラムの1カップサイズで8~10グラム)ある。

また、牛乳に含まれるたんぱく質の一種で、粉末状のホエイたんぱく質を練り込んだそば、うどん、パスタも登場。体内での吸収もよく、筋肉の材料になるアミノ酸バランスもよい。

ホエイたんぱく質の商品提案で来日した米国の栄養コンサルタント、レズリー・ボンチさんによると、米国ではひと足早く、高たんぱくブームが起きている。介護が必要になる高齢者を減らすために、高たんぱくが有効との研究データが出て、メーカーによる商品開発が相次いでいるからだ。市販の粉末状ホエイたんぱく質をジュースに入れたり、お菓子の材料にしたり、家庭で幅広く使われているという。

ボンチさんは「高たんぱく質食品は体脂肪を減らしながら、筋肉をつけるのに適している。ホエイたんぱく質なら料理の味に影響しないので、日本なら、おかゆやみそ汁に入れてもよい」と和食にも勧めている。