芸術家×取手市民、物語紡ぐ 団地や小学校舞台の漫画、地域交流育む 茨城取手
東京都在住の芸術家、宮田篤さん(33)と笹萌恵さん(31)夫妻が、取手市民とのコミュニケーションを通じて物語を紡ぐ漫画の連載に取り組んでいる。現存する団地や小学校を舞台にストーリーが展開し、連載は今年で7年目となった。温かみを感じる画風の漫画は、地域の交流を育み、街の足跡を残す役割も果たしている。(海老原由紀)
聞き取りから素材集め
2人の漫画「リカちゃんハウスちゃん」は、トラックに乗って取手市の井野団地にやってきた少女「リカちゃん」と、その保護者で住居という「ハウスちゃん」を主人公に平成23年、連載が始まった。この基本的な設定は変えずに、団地住民や児童との会話と、「おたより」と称する質問用紙の回答をもとにストーリーを組み立てている。
作画は宮田さん、聞き取りや物語の筋立ては主に笹さんが担当する。2人は月に1回、市立取手東小(同市吉田)の図書室を訪れ、昼休みの時間を利用して児童から話を聞き、漫画の「素材」を集めている。修学旅行の土産、髪形の流行、花の種類-と話題はさまざまだ。
図書室には写真アルバムに納めた漫画のほか、ポストを置いて「おたより」も募集している。笹さんは「この活動をしていると、自分の小学校時代を思い出す」と話す。クラスメートだけでなく、学年の違う児童が話し合う場面もあり、漫画は新たな交流を生み出す効果をもたらしている。
作品の公募やアーティストを紹介する「取手アートプロジェクト(TAP)」に参加した約10人のメンバーらが22年に、新たなことを始めようと再び集まったのが、漫画連載のきっかけとなった。当時のTAPに関わった宮田さんは「団地住民が共有できるフィクションがあれば」と、学生時代のスケッチを生かす創作活動を思い付いた。
少女の成長と街の変遷
当初は、井野団地の住民や商店主らに話を聞き、掲示板に漫画を張っていたが、リカちゃんの“成長”にあわせて、24年5月からは団地近くの井野小にも活動の場を広げた。
井野小は27年3月に学校統廃合で閉校したため、その2カ月後に統合校の取手東小に拠点を移動。リカちゃんも漫画の中で井野小から取手東小に転籍し、児童とともに成長していく。
団地内の隣り合う美容院と理容店、今はないパン屋、閉校する井野小…。1年に1冊のペースで連載している漫画には、団地や小学校の何気ない風景が描かれ、思い出が蓄積されている。宮田さんは「後で読むと、『あのときはこうだった』と思い返せる」といい、笹さんは「結果的に記録できたことは大切にしたい」と語る。
リカちゃんは現在、6年生の設定。同じ学年の児童は来年3月で卒業するが、漫画のストーリーはどんな展開にするか定まっていない。
宮田さんは「児童とのやり取りでイメージをふくらませ、『これだ』と決まれば」と話しており、これからも漫画の連載を通じたコミュニケーションを楽しんでいくつもりだ。