女の気持ち 53歳の転職
毎日新聞2016年8月24日
15年間勤めた会社を思い切って辞め、今の会社に転職して3カ月目になる。覚悟はしていたものの、これまでとは全く違う社風や習慣、価値観にとまどい、苦慮し続けている。
決して前の会社が嫌になったわけではなかった。たまたま、以前から勤めてみたいと願っていた会社の求人広告が目に留まり、運試しのつもりで応募したら、幸いにも採用されたのだった。だが、世の中そんなに甘くはない。すぐに自分の能力に自信を失うことになった。
そんな中でも収穫はあった。手本として尊敬できる同僚の女性に2人も巡り合ったことだ。
派遣社員のTさんは、これまでいくつもの企業でレベルの高い仕事をこなしてきた経験からか、自分の中に知識の引き出しを豊富に持ち、どんな範ちゅうの話題にも対応できる。
私と同じパートタイマーのKさんは、仕事の手際の良さは神業とも言えるほどで、そのうえ他人への思いやりにあふれ、人間のかがみとも呼べる人だ。私のような凡人は、彼女たちにはとてもかなわないなと思う。
15年間も同じ職場にいると、勝手はわかるし要領はよくなるしで、知らず知らずのうちにテングになってしまう。わかっていたはずなのに、「自分はちょっと仕事ができる」くらいに思い込んでしまっていたのだ。認めたくはないが、2人の同僚からそのことを突き付けられた。
53歳の転職は、新しい仕事との出合いというより、社会人としての姿勢を正された。そのことの方が収穫だった