免疫暴走で肺炎重篤化か 新型コロナ、全身臓器に侵入 研究で判明
産経新聞 20200504
新型コロナウイルスの患者が重症化するメカニズムが最近の研究で明らかになってきた。生命を脅かす重い肺炎は、自分を守るはずの免疫が過剰に働くことで起きている可能性が判明した。ウイルスは全身の臓器に侵入してさまざまな症状を引き起こすとみられ、詳しく解明できれば治療法の開発につながると期待される。)
「肺炎を起こしても軽い症状で治る場合もあるが、重篤化する人もいる。病気の仕組みがよく分かっておらず、どの人が重くなるか見極められない」
愛知医科大の森島恒雄客員教授(感染症内科学)は、治療の難しさをこう話す。悪化する場合は非常に急激で、人工呼吸器や人工心肺装置(ECMO)がこれほど高い比率で必要になる病気はないという。
なぜ致死的な肺炎に至るのか。量子科学技術研究開発機構理事長で免疫学が専門の平野俊夫氏らは、免疫がウイルスを打ち負かそうとするあまり過剰に働き、いわば暴走して炎症が広がり重篤化する可能性を突き止めた。
免疫の働きを高める「インターロイキン(IL)6」というタンパク質が体内で過剰に分泌されると、免疫細胞はウイルスに感染した細胞だけでなく、正常な細胞も攻撃してしまう。死亡した患者はIL6の血中濃度が顕著に上昇していたとの報告もあり、重篤化の一因として指標に使える可能性がある。
感染初期は免疫力を高める必要があるが、重篤化すると逆に免疫を抑える治療が必要になるとみられる。そこで有望視されるのが、中外製薬のIL6阻害薬「アクテムラ」だ。
関節リウマチなどに使う薬で、同社は新型コロナ向けに治験を行う。平野氏は「新型コロナは免疫の暴走を抑えられれば怖くない病気だと思う。治験が効果的に進むことを期待している」と話す。
新型コロナは呼吸器だけでなく、全身にさまざまな症状が現れる特徴がある。ウイルスが細胞に侵入する際の足掛かりとなる「受容体」というタンパク質が全身の臓器にあるためだ。
ウイルスの表面にはスパイク状の突起がある。鍵と鍵穴の関係のように、これが細胞の受容体とぴったり合うとウイルスは侵入して増殖し、その臓器に炎症などが起きて病気になる。
鍵穴となる受容体はウイルスの種類によって異なり、新型コロナは「アンジオテンシン変換酵素(ACE)2」という物質だ。国立感染症研究所の元室長でコロナウイルスに詳しい田口文広氏は「この受容体は呼吸器や鼻腔(びくう)、口腔、腸管などいろいろな臓器の細胞に存在する」と指摘する。
新型コロナは嗅覚や味覚の異常を訴える患者が多いことが注目されているが、これは鼻や口の中の細胞が感染して破壊されるためとみられている。この受容体は血管の内皮細胞にもあり、そこで炎症が起きると血栓ができて、脳梗塞など重篤な合併症につながるケースが報告されている。