宿泊客自ら太陽光発電 取手で団地ホテル開設
7回目、住民がもてなし
茨城新聞 20160930
太陽光発電による電力を室内灯などに使い、地元住民らがホテルマンとして1組だけの客をもてなす「サンセルフホテル」が、1泊2日の日程で取手市井野団地の一室に開設された。市内でアートによるまちづくりを進めるNPO法人「取手アートプロジェクト(TAP)」が取り組む「アートのある団地」の一環で、美術家の北沢潤さん(28)が考案した。2012年に第1回が行われ、今回が7回目の開催。宿泊客とTAPメンバーらがユニークな取り組みを楽しんだ。
「サンセルフホテル」は、団地の一室を“ホテル”として開放する。宿泊客はチェックインした後、ホテルマンらと一緒に特製の太陽光発電装置「ソーラーワゴン」を押して団地内を歩き回り、自分で電気を蓄電する。日没後、たまった電力で団地上空に太陽に見立てて電気をともす球形の「手づくり太陽」を風船のように浮かべるほか、客室の電気を賄う。集めた電力が尽きるころには就寝する仕組みだ。
今回の宿泊客は、埼玉県在住の会社員、伊藤信さん(50)ら一家5人。伊藤さんは、井野団地が入居開始した当時の1969年から約10年間、同団地に住んだことがある。昨年、伊藤さんが通っていた市立井野小の閉校式にOBとして参加した際、サンセルフホテルの取り組みを知って今回応募したという。
宿泊当日は雨がちらつく天候だったが、伊藤さん一家は、ソーラーワゴンを押しながら団地内を散歩し、以前住んでいた部屋の前で記念撮影するなど、当時を懐かしんだ。
30年以上の時を経て取手を訪れた伊藤さんの父、弘さん(80)は「以前は駅の周りに何もなかったけれど、とても発展していて驚いた。けれど、昔の方が情緒があったかもね」と振り返った。伊藤さんは「昔、この団地であったことを子どもたちに伝えたい」と話した。
宿泊翌日の朝は、伊藤さんらはラジオ体操をしたほか、TAP関係者らが今の取手を伊藤さん一家に見てもらおうと、昨年11月に全線が開通した市内の環状線をドライブするなどした。
TAPの羽原康恵事務局長(34)は、「毎回違うお客さまがいらっしゃる中、その日だけの1泊を地域の方がつくっている。創意工夫が生かされ、ホテルが育っていると感じている」と話した。