着物の布団 ~毎日新聞女の気持ち20120404~
私たちが、日常的に着物を着なくなってどのくらいたつのだろう。明治生まれの母が、普段から着物を着ていた記憶は簡単に呼び戻すことができる。それを思うと、和装から洋装への移行は、アッという間のことだったと分かる。
この移行期を生きてきた私たちの年代は、タンスの中に着ることのない着物をしまい込むことになった。
派手すぎて、もう袖を通すことはないと分かっている着物だが、身近にあげられる人はいない。古着屋に持っていくと、新品でもキロいくらでしか値段がつかないとのことで、着物が哀れになってしまう。
古着屋が悪いのではない。それほど着る人がいない、売れないということだ。いっそのこと、自分の手でゴミとして処分した方が、着物も喜ぶのではないかとさえ思ってしまう。
そんな折、和服に詳しい知人から「捨てるくらいなら、掛けて寝るといい」と教えてもらった。
早速試してみて驚いた。絹の肌触りの柔らかさ。布団の中で本を読むのが好きな私は、両袖を通してみた。腕ばかりではなく、肩から襟元まで、フワリと包まれて暖かい。
広げられた着物の色と紋様が豪華だ。それに何とも色っぽい。もし、隣の夫にも、夫の古い着物を掛けてあげたら、上から見下ろすと、まるでおひな様ではないかと笑えてくる。
桜の便りも聞かれるようになった。次は、ピンクの着物を掛けてみようか。