女の気持ち 小さな手
毎日新聞 2018年8月24日
父の新盆のため今月12日、青森県の実家へ帰省した。
新幹線を降りる前にふと振り向くと、幼児を2人連れた女性が後ろにいた。子どもは2歳と4歳くらいの女の子だった。大荷物を抱え2人の子を降ろすのは大変だろうと思い、少し迷ったが下の子に手を差し出した。
人見知りして嫌がるかと思ったのだが、素直にトコトコついてきた。降り口は、ホームとの間に10センチほどの隙間(すきま)があり、危険だと思い抱き上げて運んだ。お礼を言う女性に手を振って別れたが、私の手の中にすっぽりと収まった手の小ささと柔らかさ、そして体の軽さがいつまでもいつまでも残り、何度も手のひらを開いて見つめた。
実家につくと、山口県で幼児が行方不明になったというニュースが流れていた。
14日、帰路の新幹線で乗り換えのため降りようとしていると、また幼児を2人連れた女性が横にいた。2人とも男児で、2歳と3歳くらい。女性の荷物はとても大きい。手を差し出すと遠慮されたが、荷物を指さしたらうなずいた。小さなほうのお子さんを抱っこしてホームに降ろすと、その子に「ありがとー」と大きな声で言われた。
私に何度もお礼を言った2人のお母さん。私には障害のある子がいて、孫は望めない人生かもしれない。そんな私が、あの小さな手にどれほどの幸せをもらったか、想像もできないだろう。
翌日、行方不明だった男児が無事見つかったと知った。ほっとして涙が流れた。