女の気持ち 緊張した日に
毎日新聞2020年7月18日
先日、数カ月ぶりに電車に乗った。行き先は歯医者さんだ。都心へ向かう電車は混んでいるかな、治療は痛いかな・・・。ダブルで緊張する私。思いのほか電車はすいていたが、ドアが開くたびに周囲が気になり、行くだけで疲れてしまった。
駅に着き、ホッとするのもつかの間、新たな緊張をまとい歯科医院へ向かった。腹をくくって治療の椅子に座ると、いつもの先生が優しい笑顔でていねいに説明してくれる。虫歯の状態が意外にひどくなっていなかったこともあり、一気に安心した。
帰り道、来たときとは違い軽い心で眺める景色は、緑が美しい。線路の上にかかる橋をわたっていたとき、走り来る電車が見えた。周囲には誰もおらず、足を止めて運転士さんに大きく手を振った。するとなんと、運転士さんは手を振り返してくださった。うれしくて橋の反対側に移り、「ありがとうございました」と電車を見送った。
コロナ禍で、日常生活は昨年とは一変した。この状況下でも変わらず私たちを運んでくださる運転士さん、歯の健康を守ってくださる歯医者さんがいる。そう思うと、心から感謝の気持ちがわいてきた。
「よし。怖がらず頑張って歯を治そう」。マスクの下でそう声を出し自分に誓った。現状に気持ちがへこむこともあるが、小さな幸せをたくさん見つけていこうと思った。