回収されぬ古紙 中国輸出減 業者撤退も
毎日新聞2020年1月24日
古紙回収に異変が起きている。中国は昨年、日本からの古紙輸入量を2018年比で44%減らし、行く先を失った古紙が日本国内でだぶつき価格が急落。「商売にならない」と集団回収をやめる業者が現れ、住民が雑誌や段ボールを出せなくなる影響が出ている。中国は20年末までに輸入をゼロにする方針を明らかにしており、状況は悪化する恐れがある。
「集団回収が再開するまでは、古紙・古布はお出しいただけません」。昨年12月、横浜市は一部地域でそんな紙を回収ステーションに張り出した。3業者が回収から手を引いたためだ。鶴見区に住む男性(75)は「新聞や段ボールは腐らないので少しは家に置いておけるが、この先が心配」とつぶやいた。
横浜市では、自治体が各家庭の古紙を収集する「行政回収」ではなく、町内会やマンションといった地域団体が業者に古紙を引き渡す「集団回収」を行っている。市資源循環局によると、3業者の撤退で全4500団体のうち168団体に影響が出た。古紙回収がストップした地域では1月現在、別の業者や市により、回収が再開されている。
同じく全域で集団回収する川崎市でも昨年11月、業者撤退が起きた。市によると、ある業者が経営難から20の町内会に回収をやめると通告。また約90カ所のマンションに、1万円払えば回収を続けると申し出た。回収は元々無償で、突然の通告に「とても払えない」と衝撃が広がった。
回収後、圧縮して梱包(こんぽう)された古紙。だぶつき気味で置き場に困る問屋は少なくない=東京都荒川区で2019年12月
一般家庭から出た新聞や段ボールは回収業者によって集められ、古紙問屋に売られる。問屋のもとで選別・梱包(こんぽう)された古紙の約8割は日本の製紙業者が買い、段ボールや紙製品にリサイクルする。
残りは中国や韓国といった海外が買い上げる。需給はうまく成り立っていたが、世界一の製紙大国である中国が17年、外国の古紙受け入れを絞ると表明。日本から中国への古紙輸出は18年の274万トンから19年(1~11月)は154万トンと半分近くに落ちた。国内で古紙があふれかえり、問屋の買い取り価格は低迷。段ボールの場合、18年は1キロ12円ほどだったが、現在は5~6円に落ちた。
東京で「非常事態宣言」
川崎市内の集団回収から撤退した業者は「古紙はガソリン代や人件費にもならず大赤字」と嘆く。すでに東京都内も含め約300団体の回収から手を引いたとも話す。
集団回収をやめた業者は他にもあるとみられ、住民らは懸命に業者を探している。東京都東村山市で古紙リサイクル業を営む、紺野琢生さんは「マンションの管理人や管理組合から、毎日のように電話がある。リサイクルの輪を止めたくはないが、車の燃料代や減価償却を考えるとすべて応じるのは難しい」と話す。東京都資源回収事業協同組合は22日、集団回収の危機を訴える「非常事態宣言」を発表。今後、自治体の助成など関係機関に協力を求める予定だ。
「中国は環境意識の高まりから、国内での資源回収を進めようとしている」。古紙再生促進センターの岡村光二専務理事はそう説明する。日本側はタイやベトナムにシフトしようとしているが、輸送費がかさむこともあり、簡単にはいかない。
行政回収にも不安がないわけではない。回収業者を入札で選んでいる自治体では、手をあげる業者がいなくなる――ともささやかれる。資源回収が止まると、古紙が燃えるゴミに出される事態も懸念される。問屋の集まりである関東製紙原料直納商工組合の大久保信隆理事長は「古紙がゴミになると財政にも環境にもよくない。リサイクルで持続可能な社会を作るのは、市民と業界と行政の責任」と訴えている。