東日本大震災:茨城・福島産野菜、全国へネット販売 ~毎日新聞2011.04.27~
「農家一人も死なせない」
つくば市のNPO法人が、東京電力福島第1原発事故のあおりで風評被害を受けている野菜などの詰め合わせを全国へ届ける活動を始め、ツイッターで反響と共感を呼んでいる。当初は県内産だけだったが、18日からは福島県いわき市産の野菜もつくばに集め、両県別に箱詰めして週2回のペースで配送を始めた。わずか2週間で北海道から沖縄まで約4000人から注文が入っている。
つくば市で障害者が働く農場を運営するNPO法人「つくばアグリチャレンジ」が「茨城・福島農産物サポートプロジェクト」と銘打って取り組む。先月28日に、NPO理事の久野康治さん(42)が「困っている農家の野菜を集めて売ろう」と、理事長の五十嵐立青(たつお)さん(32)にメールで連絡したのが発端となった。
翌日、理事でコンピューター関連会社社員の井戸英二さん(41)と3人で30分ほど打ち合わせし、野菜を出荷する農家と買い手をツイッターで募ったところ、買い手は翌朝に100人を超えた。福島県内の野菜農家が出荷停止措置の翌日に自殺したニュースが流れたばかりで、五十嵐さんは手応えを感じた。「絶対に一人の農家も死なせない。誰もが何か支援したいと思い、きっかけがあれば広がる」
農家の募集は同市百家(はっけ)の農事組合法人「つくばブルーベリーゆうファーム」(鈴木太美雄代表理事)が全面的に協力する。今月1日、ボランティアが野菜ボックスの箱詰めと発送をした。民間ならではの速攻だ。13日からは活動主体をNPOに切り替え、同市吉瀬(きせ)のログハウス風の事務所を拠点に集出荷している。
野菜ボックスの中身は県の安全基準を前提にし、茨城産はトマト、レンコンなど約10種で、野菜は農家が持ち込む。チンゲンサイを出荷した同市鬼ケ窪の農業、木内武久さん(40)は「1箱500~600円だったのに一時は80円にまで下がった。箱代と燃料代も出なかった」と話す。
活動を知人から聞いたいわき市の斉藤健吉福島県議(68)は9日、ゆうファームに駆けつけた。「農家を元気づけるためぜひやりたい」。NPOと意気投合、いわきでの取りまとめは斉藤事務所が担い、配送はつくばで一括することを即決した。18日には、いわき市内の各農家から4トントラックで集荷し、トマト、シイタケなどを積んだ第1便がつくばに着いた。
運転するのは、同市小名浜の観光物産センター「いわき・ら・ら・ミュウ」の鮮魚直売所店長、伊藤幸男さん(58)だ。「店は津波で流され、売る魚がなく壊滅的だ。地元のために協力したい」とハンドルを握る。
シイタケを出荷する農事組合法人「いわき菌床椎茸組合」では大震災前に1日800~900キロを生産していた。磯上浩一組合長理事(74)はNPOの活動に期待を寄せる。「施設栽培で放射線は不検出なのに関東方面からはすべてキャンセルされた。避難所や老人ホームに無償で配ったが、5トン近く廃棄した。もったいない話だ。プロジェクトの取り組みはありがたい」
活動への支援の輪が広がっている。いわき市出身でコンピューターの専門技術を持つ東京都杉並区の会社員、御代茂樹さん(50)は「古里の農産物を流通させるためバックアップしたい」と話し、ボランティア活動として、つくばのNPO事務所で井戸さんとともにシステムを進化させている。
野菜ボックスの発送は200個ずつで、25日までに両県合わせて1500個を送った。井戸さんは「この活動を他県にも広げ、地域を元気にしたい」と話している。
つくばアグリチャレンジ
働く意思や能力がある知的・精神障害者の雇用の場を作るため昨年11月設立。
農家の協力で休耕地を借りて農場「ごきげんファーム」を開設、今月4日にホウレンソウを作付けした。
利用者は19~62歳の約10人。今回のプロジェクトでは箱詰めなどを利用者が担う。
野菜ボックスは2000円(送料別)。