毎日新聞余録 20130929
人類は食べ残しのおかげで今があるらしい。
はるかな昔、肉食獣の食べ残しから肉や髄(ずい)をこそぐため、石器を加工する技術をおぼえ、高い栄養価をとりこんで立派な体格になったという。
しかし現代の食べ残し「食料廃棄」は私たちの未来を危うくする。
公開中のドキュメンタリー映画「もったいない!」は欧州、アフリカ、米国、日本で廃棄の実態や背景を追い、問題の根深さを描いている。
環境への意識が高いはずの欧州も見事な捨てっぷりだ。
フランスのスーパーは賞味期限まで1週間あるヨーグルトなどを次々に廃棄し、ドイツのパン屋は売れ残りでごみの山を築く。
「大きさが規格をはずれると出荷できない。
収穫の1割以上は捨てる」と憤るドイツのジャガイモ農家。
パリ卸売市場では輸送中に一部が熟しすぎたオレンジ8トンを捨て、担当者は「よくあることだ」と話す。
国連食糧農業機関によると、世界で生産された食料の3分の1、約13億トンが毎年捨てられる。
このごみの生産には欧州大陸で一番長いロシア・ボルガ川の年間流量の3倍の水を使い、ごみとなった結果、温室効果の大きいメタンガスを大量に放出している。
食べ物を捨てれば資源と労働力がむだになり、地球温暖化も加速させる。
映画は「先進国で捨てられる食料があれば世界中の飢えた人を3度救える」と語りかける。
私たちは自覚のないまま飢餓(きが)や貧困を助長し、テロの温床を生んでいるようだ。
それでも救いはある。
この大問題は自らの無力を嘆き、動かぬ国連や政府、大企業に落胆しなくてもいい。
一人一人がきょうから行動を変えれば、解決への一歩が始まるからだ。